誤解におよばず | ||
| 時々こういうことがある。日本でも何度かあった。仕事以外のフィールドでもあったような気もする。 泣いている若い女性を前に慰める言葉を探す僕である。 「どうして外見で評価されるんですか。」確かに彼女は美人ではない、中国人で色は大変白いが顔が大きいし、太り気味で足はタイ人にはめずらしく大根といってよい。仕事はできる。 今日発表した昇格昇給の結果がショックだったのだ。昇格した同僚は確かに彼女よりは美人といって良いだろう。外見にコンプレックスを持っているようだし、それが仕事のバネになっているとすればなおさらだろう。気持ちを解きほぐすのに時間がかかりそうだ。 まず話ができるように落ち着いてもらわなくちゃ。しょうがない、まずは少し泣いてからか。こういう状況での女性のカタルシスには泣くことが必要だ。彼女はテーブルの上で両手を固く握り会わせていたが、その白いふくよかな腕に僕は自分の右手を添えて、自分が彼女の敵では無いことをを伝えようとした。 そのとき会議室の扉が開いた。一瞬僕は凍った。入ってこようとしたのは僕の上司、といっても二つ違いの兄貴のようなGMであった。扉を開けた瞬間、雰囲気を察知した彼が一瞬躊躇したのが見えた。が、彼はそのまま入ってきて、会議室に置いてあるスチールの書類棚からバインダーを取り出し無言のまま出て行った。そのあいだ僕と彼女はそのままの姿勢でじっとしていた。一部始終を気まずい沈黙が支配した。 泣いている彼女と腕を握っている僕を見て、彼がどう思ったか。気にならないはずはない。「あとで説明に行いったほうががいいかな。でも、かえって言い訳みたいに聞こえたらどうしよう・・・」 結局その後、彼とはこの件については話さずじまいだった。事情は察してくれたはずだ。察してくれたと思う。察しくれたと信じている。「あれは不倫なんかじゃなかったんですからねー。」
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